寛容ゼロ
〔エピキュール:6〕

ステファニー・ベンソン著


〔初版〕 2006年
コントルバンディエ社 (パリ)


Tolérance Zéro / Stéphanie Benson
-Paris : Les Contrebandiers Editeurs.
-218p. -12×18cm. -2006.


   

 ボルドー近辺の寒村、月明かりを少女が彷徨っていた。松ヤニの匂い漂う森を抜け月に導かれるまま歩いていく。一軒家の窓が光っていた。ノックを数度。足音が近づいてきた。扉を開けたのは大柄な男だった。驚いた目をしている。「お腹が空いているの」、女の子の身振りはそう伝えようとしていた。国籍不明の少女ルル、身柄確保。夫妻はエピキュール(ユーロ警察犯罪捜査特殊隊)とコンタクトを取り調査を依頼する。

 エピキュールの統括本体であるIA(人工知性)トミ−から指令が下りる。召集された各メンバーが配置についていく。レアは地元警察と接触、ボルドーで発生していた身元不明の少年少女連続殺害事件の線を追っていく。少女の本名はルティツァナ、ロシア系の名前だった。国籍を特定したのはイネスだった。骨相学のデータベース分析から「チェチェン:確率64%」の回答がもたらされる。

 「敵」が動き始めていた。少女を匿っていた夫妻が射殺死体で発見される。ルルも頭部に被弾、緊急医療室での治療を受けていた。クルトは病院の検査室に入りこむ。少女の血液検査を押し進めていく。「この場所で何をしているんですか」。病院関係者一人の咎めるような口調。クルトは「ユーロポール特権」で切り抜けようとした。相手の浮かべた「エピキュールね」の皮肉な笑み。男は名乗りもせず、去り際に謎めいた言葉をひとつ残していった。「あなたがお探しの分子はね、CD分類112に当たる細胞膜内の抗原ですよ」。その通りだった。ルルの細胞に隠された秘密が事件の謎を解き明かしていく…

 2020年以降の欧州を舞台にした近未来ミステリー連作第6弾&最終幕。拉致事件と不法臓器移植を仕組んでいる巨大組織摘発がメイン部の物語ですが、積み残されていた旧作の様々な謎(ヴァーチャル知性「トミー」の背後に隠れているのは誰か?エピキュールを裏切ったユーゴはどうなったのか?等々)も全て解決されています。

 性格も口もひねくれたボスのトミーがヴァーチャル人工知性だったり、あらゆるセキュリティ・システムを解除できる電子万能鍵「セサミ」で病院内に侵入したり…サイバーなギミックを多数収録。国際政治像の設定(ユーロ圏vsイスラム圏の対立激化)を上手に物語に絡めるなど以前に書いた「ユーロ・ノワール」の一つの実現形になっています。一方レアやイネス、カレブ、クルト…エピキュール所属刑事たちの動きや台詞回しがとてもヒューマン(「命は大切だよね」)で良くも悪くも20世紀を引きずっている感じ。本質は『太陽にほえろ』の時代からさほど進化していない、の実感も残ります。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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