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性悪姫物語
〔2007年〕

ローラ・バラン著
     セレブ信仰、バブルガム・カルチャー、岡崎京子
バービー人形化する身体、資本主義型欝展開

白鳥社 (パリ)
叢書「白鳥の歌」

Méchantes Filles / Laura Berent
-Paris : Editions du Cygne. -(Le Chant du cygne).
-96p. 13 × 20cm. -2007.

【あらすじ】
 美容クリームのチューブが空になっている。アイロンがけで新品ワンピを台無しにしてしまう。「恋愛関係がこじれそう」、星占いが脅しをかけてくる。外に出ればハイヒールを駄目にしてしまう。鼻のてっぺんに出来た不細工なおでき。いい男を見つけるとホモだったりする。「世の中の不幸はいつだって私にだけに」。エリザベスは固く信じていた。ピンクのベッドから抜け出るとシャワーを浴び、手を伸ばして携帯電話を引き寄せる。一番の親友ジュスティヌに涙声で連絡を入れる。「ごめんね、今疲れてるの」、親友の言葉には耳を貸そうともせず、「”私の”一番の親友でしょ。話くらい聞きなさいよ」、間髪入れずに愚痴をまくし立てていく…  
 ため息をひとつ、ジュスティヌは電話を置いた。高校時代から10年来の付き合いとはいえ、お姫様のわがままぶりに振り回されるのにはうんざりだった。確かに綺麗どころだし、バツイチとはいえ慰謝料でセレブ並みの優雅な生活を送っていた。でも性格的には最悪。いつも自分が中心じゃないと気がすまない。付き合っていた男を寝取られたことだって数知れず。つまらないことですぐ電話をかけてくる。少し「親友」とは距離を置こうかな、と思っていた矢先、近所の公園でちょっと素敵な男性と知り合いになった。名前はジェレミー。どこかで聞き覚えのある名前だと思ったのも道理、つい最近エリザベスを袖にした男だった。意気投合したジュスティヌとジェレミーは「お姫様」に見つからないようこっそりと愛を育んでいく。  
 エリザベスの機嫌は最悪だった。誰に電話を入れても留守電。メッセージを入れても返事なし。「私が死んだらあなたのせいだからね」。ジュスティヌの留守電には嫌がらせのメッセージを残しておいた。私がこんなに苦しんでいるというのに誰も誰も。女は診療所で鼻のおできを診てもらう。ストレスが原因だったが、どうせならプチ整形もかねて摘出手術をしようという話になった。これは願ってもないチャンス。女は強制的に友人たちを呼びつけ、「癌の手術を受けるからしばらく姿を消すね」とはったりをかましてみせる。友人の驚いた顔。話題の中心になるのはとてもよい気分だった。だが入院中に不穏な噂が伝わってきた。「…ジュスティヌがジェレミーとつきあってる?私の親友の癖に!」。ぶちきれたバブルの姫はジェレミーの自宅へと乗りこんでいく…  

【引用】
 ブティックに入るやいなや目にとまる商品ひとつひとつの魔法にかかっていく。機関銃並にまくし立てられる「これサイズ大きすぎ。小さすぎ。これだと下半身デブに見えるでしょ。同じデザインで黒と緑は置いてないの?本当は白が欲しいんだけど。何してんのよ、私急いでるの。もう1サイズ小さいのって言ったでしょ。あんたなんて誰が雇ったのよ。もう信じらんない、この役立たず」…忌々しいこの客の要求ときたら、うら若き売子嬢はたちまち辟易してしまう。(52〜53ページ)  

【講評】
 ブリトニー・スピアーズが神となったバブルとセレブな小世界で展開される女たちの運命劇。エリザベスの脇に現実派な女友達の視点を組みこむことで浅薄な立ち居振る舞いをシニカルかつコミカルに描き出そうとしています。とはいえ消費社会を一方的に批判している感じはせず、作家自身が相矛盾する二つの発想「お金使うのって楽しいよね」と「でもお金が全てじゃないよね」を章毎に切り替えている印象が強く残ります。  
 資本主義の面白さ、美しさ、虚しさ、悲劇を心をこめて内側から切り裂いていく。この手の作風は『レス・ザン・ゼロ』や初期〜中期岡崎京子作品(『ロック』〜『唇から散弾銃』〜『ピンク』)でおなじみですが、フランス語圏の作家が意外と苦手にしている方法論ではなかったかと思います。ブレット・イーストン・エリス/岡崎京子が黒い毒を隠し持っていたように、本作も最後でやや欝展開に向かうのもむべなるかな、と言ったところでしょうか。  
 作者ロ−ラ・バランはベルギー生まれ、ブリュッセル在住の才女。英語読みで「ローラ・ベレント」は筆名で、古典期のハリウッド女優ジーン・ティアニーの役名から名を借りています。以前に別箇所で紹介したアントワーヌ・ドール氏編集による文芸誌「黄金を待ちながら(En attendant l’or)」つながりで同氏と接点を持っており、00年代後半にデビューした若手ポップ作家としてなかなか面白い動きを見せています。次作『空虚エクスペリエンス』(08年)も手元にありますので追って批評していく予定です。  

【最終更新】 2009-12-25
Photo : "Brute Force" / Jules Dassin, 1947
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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