破格値でいこう
ジル・ボルネ著

〔初版〕 2004年
グラッセ社(パリ)
叢書グラッセ・ノワール

Ali casse les prix / Gilles Bonais
-Paris: Editions Grasset & Fasquelle.
-(Grasset Noir).
-275p. -20 × 13cm. 2004.

   

 パリ。アンリエル・プリュス通りに一件の食料品店。この一画で「アラブ人の店で買ってくるわ」と言えばこの店のことだった。
 必ずしも治安の良くない一画、深夜にタチの悪い連中が襲ってくることもあった。大抵は店の主人アリが警察に連絡してことなきをえるのだが、今回ばかりは逆に怪我を負わされてしまう。些細な出来事?写真入りで報道されたことで大事になりはじめる。間近に迫った市長選、世論の風向きが変わり始めた。現職の市長がポイントを落とし「治安改善」を謳う極右候補者が点を稼いでいた。
 「シルクのネクタイ」をした二人組がやってくる。現市長の選挙管理事務所の代表者だった。PR活動に協力してくれ、の提案だった。見返りに路上で生鮮食品を売っても良い許可が下りる。朝、市場で40キロの野菜、果物を買ってきた。市役所の計らいで値札付け専門の男までやってきた。
 カチャカチャカチャ・・・機械が新しい値札をつけていく。今日からは大手スーパーより安い値段で。差額は市長が補ってくれる。破格値でいこう。
 作戦は大成功だった。客が次々とやってくる。「市民の生活を大事にします」、現市長の評価も持ち直していく。全員が損をしない話のはずだったが…誰かが店に放火した。歯車が狂い始める。
 ジル・ボルネは繊細な観察力を武器にしてありふれた日常生活を心地よいドラマに変えていく。前半部ではパリにやってきた一アラブ人の日常を淡々と描きながらジワジワと幸福感を高めていく。一応冒頭部で主人公アリが「カミソリの刃を食わされた」設定になっているので、どこかで「不幸」に向かうのだろうの予感はあるのだけれど、やはり放火事件をきっかけに(これもまたジワジワと)状況が悪化していく。最後の5ページで初めて殺傷事件が起こる。誰が誰を殺すのか、作品を読み始めた段階では予想もつかない優れた想像力、構成力である。
 タイトルも地味(原題は「アリが価格破壊します」)。表紙も地味(食料品店の軒先を写した写真では・・・)。でも冒頭の10数ページ、なぜかジャッカルの毛皮を身にまとい、怪我した羊を背負った男が登場する場面から語りの魔術は始まっている。本当はこういう作品がベストセラーになってほしいのに。  

Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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