レッド・サイレン
〔1993年〕

モーリス=G・ダンテック
     傭兵、ユーロ・ノワール
ボスニア内戦、スナフ・ムーヴィー

ガリマール社 (パリ)
叢書セリ・ノワール 2326番

La Sirène rouge / Maurice G. Dantec
- Paris: Editions Gallimard.
- (Série noire : 2326).
- 478p. - 1993.

【あらすじ】
 1993年4月10日。アムステルダム中央署に一人の少女が出頭してきた。「アニタ・ヴァン・ダイク主任警部と会えますか」。受付の男が不審気な顔をしているのを前に、アリスという名の少女は「殺人事件絡み…連続殺人に絡んだ話です」と言葉を補った。事務室に案内されたアリスは実母と義父の犯してきた殺人を告発し始める。少女の両親は会社経営者としての特権を利用し、自宅の豪邸でスナフ・ムーヴィー撮影を行っているそうだった。この段階、事件が全欧州を揺るがし少女の写真が各国日刊紙一面を飾ることになるとは誰も予想していなかった。  
 土曜。少女はショッピング・センターに入っていく。二人の刑事がアリスの言動を見守っていた。エスカレーターを上ってゲームソフトの棚から書店を抜けていく。警官達を巻き、実の父が住むポルトガルに向かうつもりだった。だが雑踏を抜けて外に出た瞬間、見覚えのある日本車と男のシルエットが目に留まる。母の放った刺客だった。走り出したアリス。銃を抜いた男。異常に気が付いた二人の刑事が少女を守ろうとするが逆に射殺される。一命を免れたアリス。鍵の開いていた車を見つけて身を隠した。疲れと安心感、一瞬眠気が襲ってくる。目を覚ますと鼻先にルガーを突きつけられていた。傭兵ユーゴ・トゥーロップだった。  
 「あの連中に追われてる。そうなんだね?」
 フライドポテトとコーラを前に少女は頷いた。どうしてもポルトガルに行きたいそうだった。当初は駅まで送り届けて終わりにするつもりだったが…追ってきた殺し屋を相手にしている内に否応無く巻きこまれていく。ベルギー〜フランス〜スペインを経由し南ポルトガルへ。警官と殺し屋に追われた二人の長旅が始まった…
 

【講評】
 93年発表のデビュー長編。カドラの『モリツリ』、フェレの『HAKA』と並ぶ90年代仏コンテンポラリー・ノワールの三大傑作の一つ。ボスニア・ヘルツェゴビナで発生した「地獄図」を念頭に置き、欧州史全体の終末を問いかける強い意識の元で「お姫様と騎士の逃避行」というロマンチックな物語を再演しています。  
 1993年、ユーロ概念は未完成で沸騰中でした。新欧州の誕生で移動の意味、情報の在り方、言語感覚が変わる。様々な「境界」がダイナミックに変化していく。『レッド・サイレン』は時代の空気、未来の可能性を鷲掴みにし、新たな形の意識を明快な物語まで生成させきった点で貴重な一作となりました。本来SF志望だった作家にとって「依頼で書いた」一作、それほどお気に入りではないようですが(本当?)完成度、そして構築の流麗堅牢で言えばこれが一番です。  

【最終更新】 2009-05-23
Photo : "Brute Force" / Jules Dassin, 1947
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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