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母船からの指示を受け、私は生と死を繰り返していく。私は観察者。9月11日、ある晴れた秋の朝、私は生まれようとしていた。そのために死ななければいけなかった。 |
世界貿易センタービル。8時46分。航空機が94階に衝突、建物全体が一瞬で停電、機能を停止。飛散した8万リットルの燃料が炎上を始めていた。あちこちに転がっている死体。全て私の予測通り、計算通りだった。 |
現在位置90階。上から声が聞こえた。煙の中に立ちすくんでいる少女が見えた。飛び降りるように促した。落ちてきた体を受け止める。頬が焼けるように熱かった。私が生まれてきたのはこの少女のためだった。あと1時間半でビルが倒壊。脱出を開始する。非常階段、死体を踏み越えて私は駆け下りていく。 |
翌日、少女に着替えを買ってきた帰り道、停車中のフォードに目をとめる。助手席の男に見覚えがあった。どこで?私は母船とコンタクトを取った。一旦は国境近くに家を構え、事件の沈静化を待った。 |
日々が流れていく。テロ事件から1年が経過。私は毎朝少女を学校に送り届け、昼は日々の観察を記録していく。だが敵も諦めてはいなかった。一台のフォードがやってくる。この街を離れる時期が近づいていた。少女と一緒に国境を越え、母船との約束の地カナダへと向かう… |
『レッド・サイレン』の逃避行を美しく変奏した「空の北へ」。記憶を失った男が浜辺でもう一人の自分と遭遇する「アルテファクト」。殺人鬼がウェブ経由で殺人映像を配信していく「王子様の世界」。三つの中篇を収録。 |
ロマン・ノワールではなく宗教がかったSF作品。最近のダンテックにしては妙に分かりやすい内容で結局は今回も賛否両論。呪文めいた同一文句の繰り返しが異様な効果をあげています。仮想地獄の語り部としてまだまだ伸びそうな予感がしますね、ひたすら追い続けましょう。 |
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