ミラクさんの復讐
ジャン=ポール・ドゥミュール著

〔初版〕 1996年
リヴァージュ社(パリ)
叢書 リヴァージュ・ノワール 240番

Milac / Jean-Paul Demure
-Paris: Editions Rivages.
-(Rivages/Noir; 240).
-276p. -17 × 11cm. -1996.

   

 地元の電気屋でビデオデッキを手に入れた。郵送してもらったのだけれどおまけにビデオが一本ついてきた。新装開店の御祝いだそうである。ベルモンド主演。リモコンと説明書を手にビデオを再生し始める。
 冒険活劇には見えなかった。
 画面上、黒の毛皮を着た女が裸になり始めていた。カメラ目線、「お好きな時にいつでも」。画面下に名前と電話番号。電話を入れてみた。「…今すぐ?」「あぁ、今すぐ」。30年代のアパルトマン、暗い目をした女が部屋で待っていた。
 帰宅。二ヶ月前に家を出た妻が戻っている。ぎこちない会話を交わす。食事が済むとミラクはアトリエに足を運ぶ。妻アドリアンは煙草を吸いながらヘッドホンでクラシックを聴いていた。体調不良を口実に会社を辞めて以来、夫を理解できなくなっていた。アトリエに作品が無いのは知っていた。絵を画いていたわけではない。一人になるための口実だった。
 ビデオの一件で神経質になっていたミラク。「数日間、実家に戻った方が良くない?」、追い払われるように自宅を後にする。実家には戻らなかった。隣人宅で夜を明かし、再びアトリエに戻っていく。ミラクを狙った刺客がやってくる。一歩すれ違い、犠牲になったのは妻アドリアンだった…
 87年に推理小説大賞受賞、決して評価の低い作家ではないのだけれど、作家ドゥミュールの最良の部分は緩やかに盛り上がっていく悲劇性にあるのだ、そんな事実が見えてきたのはようやく90年代に入ってからでした。
 小道具を巧みに使った都市型の悲劇、運命劇。主人公の復讐は派手な展開を取ることなく、淡々と、一歩一歩を踏みしめるように進んでいく。だからこそ、結末でもう一度ふっと高まっていく暴力に説得力があります。

Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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