地下病棟
エルヴェ・ジャウアン著
〔初版〕1990年 ドゥノエル社(パリ) 叢書「冷汗(シュウール・フロワッド)」
Hôpital souterrain / Hervé Jaouen -Paris : Editions Denoël. -(Sueurs Froides). -327p. -23cm. -1990.
トンネルに入ると急に寒くなった。娘がパンダ型のリュックを開いて上着を取り出していた。
矢印が入口を指している。第二次大戦下、ナチスによって建設されたジャージー島の地下病棟は地下都市の様相を呈していた。焦茶色の廊下を抜けていく。病室、資料室、手術室…男はタバコを吸いに向かう。人形を使って再現されたこの地下病棟には人をぞっとさせる何かがあった。土産物屋に顔を出し、妻の元に戻っていく。「アンジェリーヌは?」「いや、君と一緒にいたはずだろう」、「知らないわよ」。妻が声を高めていく。他の人にも手伝ってもらったが…駄目だった。H型の地下回廊、7才の娘アンジェリーヌが姿を消した。
夜9時、地方警察のメンバーが地下迷宮の捜索を開始。翌朝、ロンドンから到着した警察犬が捜索に参加。アンジェリーヌは見つからないままだった。妻はホテルの一室に閉じこもっている。男は希望を失い始めていた。警察、新聞記者は誘拐の可能性を示唆したが、それらしい要求はなかった。男は妻を自宅に帰らせ一人ジャージー島に残った。
何の情報もないままに日々が過ぎていく。妻は…自宅の電話腺を切ったようで音信不通だった。男はジャージー島での道筋を一つ一つ思い出し、辿り直していく。「不幸を呼んでいるのは妻ではないのか」、初めてそんな気になった。妻の発言、動作を思い返してみる。娘に対する醒めた態度、レストランのテラスでの奇妙な振舞い、本屋で手に取った『亡霊島』・・・「悲しみを紛らわせようと奥さんを憎もうとして」、違う、そうではなかった。妻の態度一つ一つが何か「異常」を指し示していた。その妻から連絡が入る。離婚の申し立てだった・・・
失踪した娘探し。父親の執念は一方で妄想と結びついていく。最後は猟銃を手に妻を射殺に向かう。「妻は魔女だから」、主人公の妄想、執念の高まりが圧倒的。ジャウアン畢竟の一作。
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