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「誰かお前さんを待ってる人でもいるのかい?」
「たぶんね」
ダブリンからフェリーで帰国。7年前に賭けで大負けして故郷を離れ、二度とアイルランドの土は踏まないつもりだった。 |
「コーナー・バー」に入っていく。船の写真、アクリル画、エッフェル塔、異国情緒溢れる人形…中央に人の壁が出来ていた。マスターのパディが合図を送る。アコーディオンの音と共に『神よアイルランドを救いたまえ』の大合唱が始まった… |
パディの娘クレアと結婚式をあげる予定だった。「髪が伸びたでしょう」、そう言って女は目を伏せる。古い血が甦ってくる。古い敵も甦ってくる。「出戻りか?」バーの敷居をまたいでやってきたのは地主の息子フランシス・コステロ。7年前にポーカーで大負けた相手、工場と土地を売り払った相手だった。「もうカードはしないのか?」と挑発してくるフランシス。「負け犬は水も嫌うってな」、嫌味一つ残して去っていく。 |
クレアが飼っていた病気の犬の面倒を見ていた。元々はコステロがドッグ・レース用に育てていた犬だったが病気で毛が抜け始め屠殺されかけた。名前は「コネマラ・クィーン」。どこか自分と似ていた。獣医に診てもらい、完治後にトレーニングを開始。今度こそフランシスを倒す。「キャッスルヒル・ギャンブラー」対「コネマラの女王」… |
『地下病棟』が夢幻的に語られているのに対し同年発表の『コネマラ・クィーン』は乾いた土、風、草の匂いを感じさせる簡潔な口調でまとめ上げています。純朴な物語は男と男、女と男の戦いとなり、欲望と欲望が絡みあいながら銃声の悲劇へと高まっていきます。絶好調の作家、資質すべてが綺麗に結晶化した90年もう一つの傑作。 |
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