アンブリュンヌのフローラ

エルヴェ・ジャウアン著


〔初版〕1991年
ドゥノエル社(パリ)
叢書「冷汗(シュウール・フロワッド)」


Flora des Embruns / Hervé Jaouen
- Paris : Editions Denoël.
-(Sueurs Froides). -1991.


   

 港町。漁師たちが魚を売る時間は終わっていた。嵐が過ぎ去って生暖かい風が吹いていた。停車した車、窓ガラス、屋根にぬめつくような雨滴が張りついている。石畳の歩道を一人の男が歩いていた。ベージュ色の上着を着た男、ポケットに差しこんだ右手がナイフを握っていた。途切れ途切れの意識で何かが蠢いている。二十年ぶりの帰郷だった。

 河岸にある一軒のバーが水夫、漁師のたまり場になっていた。女主人が灰皿を捨てている。「波煙」を切り盛りしているフローラだった。男にとっては妻に当たっていた。二十年前に結婚、その直後に漁に出発、船は嵐で座礁し男は行方知れずになっていた。そこに二十年会わなかった妻がいる。でも声をかけることはできなかった。

 二十年前、「フローラ」の名を冠した漁船を出発させたとき、妻が他の男と寝ているとは想像もしていなかった。知らないのは当人ばかり。水夫たちの間では有名な噂だった。フローラを寝取った相手はノナ、プレイボーイとして名うての寡夫だった。

 何のために故郷に戻ってきたのか自分でも分からなかった。「ヴィノク・ル・ヘモン 1946―1970」。自分の墓を見るためかもしれなかった。男はフローラの娘ヴィヴィアンヌに声をかけてみる。実の娘かもしれないと知りながら会話を重ね、杯を重ねていく。自分の娘だと知りながらホテルについていく。ポケットのナイフが冷たかった…

 復讐譚にしては動機付けが弱く(主人公は半ば夢遊病者のように自分の故郷をさまよっている)ジャウアン作品にしては中盤の盛り上げが弱い(断片化した心性を追いかけている部分が多く人物と人物の衝突が起こらないから)。でも充実期の一作だけあって読み応えは十分。最後で主人公の「内なる怪物」が目覚め、人格自体が破綻していく部分(若干ジム・トンプソン色あり)は面白いです。港町のくすんだ風景、水夫の勢いのいいやりとりも堂々と再現されています。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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