扉を閉めてくれてありがとう

エルヴェ・ジャウアン著


〔初版〕 1999年
ドゥノエル社(パリ)


Merci de fermer la porte / Hervé Jaouen
-Paris : Editions Denoël.
-(Sueurs Froides).
-1999.


   

「いつも微笑んでいた青年が」
青年はいつも微笑んでいた。「誠実」「気安い」「胸を開いた」「優しい」。どんな形容詞も当てはまらない。本当に好かれているのかも、そう思わせる微笑だった。銀行では長さ5メートルもある小切手の選別機を扱っている。仕事は確かだった。若干の孤独癖はあったのだが。夜の海岸に自家用車を止め、排気ガスで自殺するとは思えなかった…

「ノワザン氏」
B町の大地主ノワザン氏と知り合いになったのは仕事(公証人)の関係だった。戦時中にレジスタンスに参加したというノワザン氏は地主にしては変わり者。屋敷に案内され、庭で栽培されているアスパラガスを紹介された。「県下で唯一のアスパラガス畑でしょうな」。財産などどうでも良いと思っている様子。しばらくの間付き合いが続いた。十数年後、久しぶりにB町による機会があった。ノワザン氏の近況を尋ねたが…「自殺した」とのこと。レジスタンス時代の手榴弾で地下のワイン倉庫ごと粉々になっていた。

「懐中時計」
「お前にこれをやろう」。少年は目を光らせた。純銀の時計だった。国鉄に勤めていた祖父が1926年に初任給で買ったものだった。「一日数分遅れるがな」、祖父は笑っている。少年は「大切にします」と約束した。約束は守れなかった。学校でグヴェルタツ少年は恐喝にあい、成り行きから贈り物の時計を売り払うはめになってしまう。それが命取りになるとは知らなかった…

「喫茶“ヴィアデュク”にて」
かつて漁師や商人で栄えていた河口の港町。川岸に一件のカフェ。喫茶“ヴィアデュク”。夜九時、店に二人組の女性客がやってくる。赤毛と栗毛、一人は目を泣き腫らしていた。聞くともなく会話に耳を傾ける。「もう何百回も話し合ったでしょう。繰り返さないで。ただ手伝ってくれればいいの」意味深な対話だった。カフェを出た二人は腕を組み、橋の方角へ向かっていく…

 十人十色な生の形/死の形を追った掌編6つ。あえて大袈裟なドラマに盛り上げず、日常の一瞬に潜んだ死を優しく掬い上げていく手つきです。死に至るまでの動機付け、経緯が完全に説明されていないのが逆に生々しく感じます。淡々としながらどこか悲劇を感じさせるのがジャウアンです。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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