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南仏、秋のマルセイユ。墓石の前に立ち並ぶ参列者。3人しかいなかった。正確には2人と1匹。哲学講師として身を立てている賢者ダシ。家具職人のパチプロス。ビーグル犬のハサン。「この犬はね、どうして彼女が殺されたのか知ってるんだ」。アパートで一人暮らしをしていた老女性アフマドの殺害事件、新聞でも小さな扱いだった。2人と1匹は地下鉄で帰路に着く。 |
数日後、今度はパチプロスが襲撃され入院。犯人はロシア人二人組、男を気絶させた後に家捜しを行っていた。老女性アフマドが遺した書類を探していたようだった。賢者ダシは犬を友人宅に預けて調査にとりかかる。ポケットにはアフマド宅で見つけた一通の手紙を潜ませていた。 |
「この手紙は」。手にしていたルーペから目を上げた女、「お母さん宛に書かれたものね。チェチェン語なの」。12ヶ国語を操るジュリアのお陰で手紙の解読に成功。老女性アフマドの息子とはチェチェン紛争で解放軍を組織しているリーダーの一人だった。手紙は「銀行の口座」に言及、解放運動を支える相当の金額が動いているはずで、ロシアの秘密組織が暗躍しているのも不思議ではなかった。 |
きな臭い陰謀に金の匂いを感じ取ったのはダシ一人ではなかった。賢者ダシから犬を預ったラウールは隠してあったスーツケースから銃を取り出して旧友とコンタクトを取る。ラウールはコルシカ島生まれ、同地で武装闘争の過去もあった。賢者ダシ、リポーター、新聞記者、ロシア秘密組織、元コルシカ政治活動家が入り乱れ隠し口座探しの危険なゲームが始まった。謎の鍵を握っていたのはアフメドが遺したビーグル犬のハサンだった… |
東欧文学紹介に強い地方出版社ガイアで頭角を現している作家メゾヌーヴの第2長編。冒頭はミステリータッチですが途中からスパイ小説系の展開を見せていきます。キチキチッと進むわけではなく超のんびり型。大量の脱線、雑談、無駄話、引用が含まれています。最終ページを読み終えた後、事件解決に主人公が大して役に立っていない事実に気がついて愕然とし、思わず笑い出してしまいました。 |
舞台はマルセイユ郊外ですがイタリア、ギリシャ、コルシカ、イラン、エジプト、アルジェリアまで絡んでくる超多国籍ぶり。80年代後半にペナックがベルヴィルでやってみせた作業をマルセイユで再現している印象も残ります。『人食い鬼』や『カービン銃』の密な面白さをルーズに崩した感じ。本作はこの後バベル・ノワールから文庫版で再版されています。 |
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