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陽の当たる屠殺場で
〔1972年〕 |
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レオ・マレ著 |
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レオン・トロッキー、GPU
石油採掘、メキシコ |
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[初版] 1972年
フルーヴ・ノワール社 (パリ)
叢書スペシャル・ポリス 959番 |
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Abattoir ensoleillé / Léo Malet
-Paris : Editions Fleuve Noir. -(Spécial-Police: 959).
-236p. -11 × 18cm. -1972. |
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【あらすじ】 |
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3月始め、数年来音沙汰の無かった旧友スティーヴから新聞社に連絡が入る。「今すぐに会えないか」。誰かに追われている状況で手渡したい「資料」があるらしい。スティーヴとは戦前からの付き合いだった。元ジャーナリスト。アメリカでのトロッキー主義者としては重鎮で、メキシコに亡命した晩年のレオン・トロッキー本人とも深い繋がりのある男だった。私はスティーヴの指示に従い、目印代わりのウィスキーを一本手に入れると待ち合わせのバーに足を運ぶ。インディアン女性のイザベラがスティーヴの隠れ家まで案内してくれたのだが…既に男は死体となっていた。二人組の殺し屋に襲われ、私も全治数週間の怪我を負った。 |
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退院後、新聞社の上司の命を受けてメキシコへと飛ぶ。アメリカに戻ってくる前のスティーヴが最後に滞在していた小さな街シウダード・レジーナへ。街はかつて石油の採掘で栄えていたが油田が尽きてからは尻すぼみの一方だった。それでも最近新しい会社が旧油田を買い取ったらしく、周囲には自警団が銃を手にうろつきまわっている。私はホテルを拠点に調査を進めていく。現在では観光が主な収入源となっている町でスキャンダルはご法度だったが、それでも数ヶ月おかしな出来事が続いていた。メキシコに帰化したハミルトンという男が殺され、50万USドルという大金が行方不明になっていた。 |
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ホテルに戻ると待っていた電報が届いていた。知りあいの記者にシウダード・レジーナでのトロッキズム運動ネットワークを調べてもらっていた所だった。この街には二人、トロッキ−主義に共鳴していた者がいる。一人は殺されたハミルトン、もう一人は「耳無し」と呼ばれている自称画家だった。情報を得るために画家の自宅を訪ねる…敵が一枚上手だった。電報の内容は筒抜けで、私を出迎えたのは偽者の「耳無し」だった。本物はとっくに消されていたらしい。この小さな町で蠢いている陰謀とは何か?真実を突きとめるため、借りを返すため、私はメキシコの太陽の下で奔走を続けていく… |
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【引用】 |
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どうしてあの男は他の連中同様、荷物置き場に帽子を預けなかったのだろう。おかしな話だった。帽子の内側、革に縫い目があった。ナイフを使って縫い目をほどいていく。[…]
出てきたのは緑色の紙切れだった。
四折りの紙、汗の汚れが点々としている。シウダード・レジーナ駅の荷物預り場の預り証だった。機械に通した穴が開いている。日付は約2ヶ月前のものだった。(160ページ) |
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【講評】 |
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レオ・マレが30年(1943〜72年)に渡るノワール作家生活で最後に遺した一作。60年代末に再評価ブームが始まり、マレはこの時期幾つかの新作を上梓しているのですが、本作だけ探偵ビュルマが登場していません。またアメリカ〜メキシコを舞台にしている点も他作品と異なっています。 |
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内容的にはエキゾチックな政治経済サスペンスといったところ。主人公の動きが大胆で、平気でベランダから家宅侵入したりしています。一方敵から何度も襲われて記憶を失い、銃で脅され、紐で縛られ、命の危機に晒されていく…物語展開は初期ビュルマ物とほとんど変わっていないです。伏線の貼り方も相変わらず丁寧。粗筋には組みこめませんでしたが、脇役として登場してくる(そして次々死んでいく)女性群の描き方も癖があって面白いです。 |
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本作品が発表された72年はマンシェットやヴォートラン、ラフ・ヴァレら新世代ノワール作家が台頭し始めた時期に当たっています。巨星の落下は時代の変転を強く印象付けました。 |
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【最終更新】 2009-07-07 |
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