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アフロディーテ狩り
〔1970年〕 |
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ゼウス・ドゥ・カストロ
(J=P・マンシェット&ミシェル・レヴィヌ) 著 |
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官能・ポルノ小説
ハードバップ/フリージャズ、ブラックパンサー
アフリカ反政府ゲリラ活動 |
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[初版] 1970年
レジーヌ・デフォルジュ社 (パリ)
叢書ロール・デュ・タン |
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Les Chasses d'Aphrodite / Zeus de Castro
(J.-P. Manchette & Michel Levine)
-Paris : Régine Desforges.
-(L'Or du temps).
-253p. -1970
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【あらすじ】 |
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アフリカ、ナイロビで奇妙な夫婦が狩りを行っていた。夫の方は埃アレルギー、目を赤く腫らしくしゃみばかりしている。英国では名の知れた富豪だそうで名前を刻んだ葉巻まで持ち歩いていた。妻モーリーンの方は奇妙な目をした女だった。ガイドとして雇われたクロフォードは日々女の裸身を夢想しつづけていた。ある日、夫の方が発作を起こして倒れてしまう。ベッド脇、モーリーンは容態が落ち着くのを見計らってから夫の煙草入れに手を伸ばす。マリファナ入りの煙にようやく気が落ち着いてきた。ぼんやり回想を始める。夫との不思議な出会いを思い出していた。 |
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少女時代、一時期スイスの教育施設に預けられていたことがある。神に従い、夫に従う忠実な女性を作り出していく組織だった。だが両親の事故死によって環境は激変。17才のモーリーンは一文無しで雨のロンドンをさまよっていた。新聞の求人広告が最後の頼みだった。階段を上り、ドアをノックすると男の顔が現れる。自称アーチスト。「鉄ベッドに全裸で縛り付けて写真を撮らせてもらっていいですか」。女は断った。男は残念そうな顔をしながらも電話で誰かと話し始めていた。モーリーンが部屋を辞し、通りに下りると一台の高級車が近づいてくる。一人の紳士が下りてきた。「今ちょうど結婚相手を探している最中なんですよ。良い女性が見つかったとの連絡を受けまして」。これが富豪との出会いだった。 |
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新しい自分を一つずつ発見していく。時に衆人の前でオブジェとして晒され、時に夫の指示に従い道具を奥深くまで挿し入れていく。夫は満足そうだった。だがその陰で予想していなかったもう一人の「私」も生まれようとしていた。カリフォルニア旅行中、ジャズ・バーで起こったいざこざで夫婦関係が冷却。今回のアフリカ狩猟旅行は関係修復のためでもあった。結果は凶と出る。深夜、モーリーンがガイドと共に外出したと知った夫は半狂乱となり、猟銃を手に追いかけていく。ガイドを射殺。妻を取り戻したかっただけなのだが…女はランドローバーの運転席に飛び乗るとアクセルを踏み、夫めがけて一直線に突っこんできた… |
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【引用】 |
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ピアニストは熱に浮かされたようにチャールズ・ミンガスの楽曲、『黒い聖者と罪ある女』の一フレーズを変奏し始めた。コードのつなげ方は人々を驚かせるに十分なもので、愛の交わりの躍動をそのまま形にしたものだった。(120ページ) |
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【講評】 |
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1970年前後、マンシェットがミシェル・レヴィヌとの共同作業で残した作品の一つ。マンシェットの描く女性は痩せぎすで筋肉質のタイプが多い(『死体収容所は満室です』、『殺戮の天使』、『血の王妃』)のですが、「運動で鍛えた/スポーティーな」肉体の持ち主、本作ヒロインのモーリーンはまさに原型といった感じです。 |
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本来の目的であったポルノ小説として読んでも興味深い一作。官能小説の紋切型の一つ「開発されていく女」を扱いながら、一女性の性遍歴(獣姦、4P他)を回想の形で描き出していきます。版元のレジーヌ・デフォルジュは自身この後官能小説作家として有名になっていく女性。60年代末から文学を通じた性解放を押し進めていきます。 |
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物語後半、夫を轢き殺したモーリーンは密林に逃れ、コンゴ東部の反政府ゲリラ部隊に助け出されます。欧州型の道徳観を否定した自由な空気の中でヒロインは「少女時代と同じ幸福」を再度味わっていくのですが…この楽園は長くは続きません。治安部隊による急襲で同志は次々と殺されていく。或いは裏切っていく。この挫折感、解体感は『地下組織ナーダ』と同一。官能小説として始まった夫婦の物語はここで政治の季節の寓話へと変わっています。 |
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【最終更新】 2009-06-17 |
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