酒中有真

ブリス・ペルマン著


〔初版〕 1981年
フルーヴ・ノワール社 (パリ)
叢書スペシャル・ポリス 1692番


In vino veritas / Brice Pelman
-Paris: Editions Fleuve Noir.
-(Special-Police ; 1692).
-215p. -11×18cm. - 1981.


   

 南仏ニース。ノートル・ダム寺院の弔鐘が鳴り始める。開かれた門から歩き出してきた参列者たち。ホームレス2人が一目散に駆け寄っていく。葬儀の参列者は慈悲深い気分なのが常である。物乞いには格好のターゲットだった。取っ組みあいの喧嘩を始めた2人。勝者は犬を連れた老人だった。名はレイモン・ペトルッチ、以前は大手建設会社の社長として鳴らした人物だった。今日は最高記録となる68フランを獲得。仲間に大盤振舞い、酔っ払った挙句相棒の犬を相手に昔話を始めた…

 フレサンジュ男爵に委託された古城の修繕工事。全ての悲劇はこの工事から始まっていた。費用を請求に行った折、「君の優秀な仕事振りを見込んで」と相談を持ちかけられる。「娘を嫁にもらってくれないか」。娘とは離婚歴のある美貌の女性ナデージュだった。縁談で工事費用をチャラにしようとする男爵の思惑も見えていた。だがナポリの貧乏家族に生まれ、裸一貫で会社を築き上げた男にとって城や名誉、称号は魅力的だった。

 カクテルパーティーに運転手付きの送迎、年代物のワイン…結婚生活は上々の滑り出し。お互い恋愛感情はなかったがおかげで事業にも差し支えが出なかった。妻の浮気には目をつむっておく。秘書アルレットに手を出してしまった以上自分も同罪だった。お忍びでスキ−旅行までは良かったが深夜アルレットの体調が急変する。折悪しく大雪。病院へ運ぶまで時間がかかりすぎた。夕方、アルレットは髄膜炎に伴う敗血症で死亡。スキャンダルを怖れペトルッチは事件隠蔽を図るのだが…

 ペルマン代表作は『片目を殺せ』(68年)、『穢れなき殺人者』(82年。邦訳有)辺りで定説化しています。実際は他にも高い評価を受けている作品が幾つかあって本作もその一つ。当時様々な作家が扱っていたホームレス問題をペルマン流に解釈しています。

 第一印象は「伏線の張り方が上手い」。大手建設会社社長はいかに零落していったのか、突然死事件の顛末は?二つの物語を過不足なくまとめ、さらに結末部でもう一段ひねった謎も解き明かされています(これはしてやられたり)。同叢書アルノーやペローに比べてもミステリー形式の扱いが丁寧ですね。弱点はアイデア先行で小綺麗にまとめすぎインパクトに欠ける部分。端麗甘口で芯がしっかりしています。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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