アメリカの遺言

フランシス・リック著


〔初版〕 1974年
ガリマール社 (パリ)
叢書セリ・ノワール 1689番


Le Testament d'Amérique / Francis Ryck
-Paris: Editions Gallimard.
-(Série Noire; 1689).
-12×18cm. -1974.


   

 南仏からの列車がパリに到着。旅行者に紛れていた一人の男。売店で買った朝刊を喫茶店で開いてみた。昨日の出来事が記事になっている。刺殺されたエルマンの顔写真、そして殺人者である自分の写真も一枚。被害者の妻を巡る感情のもつれ、そんな説明がされていた。真実とはずれていたが…男-マルク-は新聞を折りたたんで席を立つ。

 15年以上前に仕事の相棒だったロスコに電話を入れる。自分を匿ってくれそうな知り合いを他に思いつかなかった。待ち合わせ場所にやってきたのは黒髪の女レア。「ロスコは今パリを離れているの」。15区のアパルトマンに案内される。奇妙な感覚だった。写真一枚を除くとロスコの住んでいた形跡がない。レアに問いただしてみたが…曖昧な回答でお茶を濁されてしまう。

 マルクとレア、二人の奇妙な共同生活が始まる。レアの言動は謎だらけだった。不意にやってきた男二人がレアを殴打。女は叫び声一つ立てず拷問に耐えていた。マルクは女をベッドまで運んでいく。「初めてじゃなさそうだね」と男。「質問はしないで」と女。翌日、ロスコから初めて電話があった。豪邸のセキュリティ・システムを解除、ユトリロを含む高額の名画5枚を強奪する。仕事の内容は以前通り。ただし今回の相棒はレアだった・・・

 07年夏に亡くなったフランシス・リックがセリ・ノワールに残した名作の一つ。状況を二転三転させすぎて論理的な整合性が崩れており、結末もやや片すかし気味なのですがこれは間違いなく過程(=物語と感情の起伏)を楽しんでいく作品。無意識に前髪を払う動作をしているレアを見て「いつ髪型を変えたの?」と主人公が尋ねる場面があるのですが、この手の観察力と表現力が登場人物に親しみやすさ、存在感を与えています。

 後輩作家マンシェットやA.D.G.に比べアメリカ古典志向を強く打ち出していたのがリックの個性でした(冒頭の語り口がトリッキーで、馬に乗っていたマルクとエルマンの口論場面は米ウェスタンとしても読めるようになっています。「あれ?西部劇?」と思っていると次第に細部が現れて現代パリの風景に変容していきます)。唯一主人公に虚無主義の影が見え隠れしている辺りがフランス流。米作品ならもっと生命力のある強い人物像になっていたはずです。仏ノワール王道ってこんな感じだったよな、と目をパチクリ。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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