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女はいつしか「雌蛇」とあだ名され、ハリウッドの名士たちから厭われ、憎まれるようになっていた。本名はパメラ。米映画界のゴシップ記者として15年のキャリアを持ち、記事の一つ一つがスター俳優、監督たちの命運を握っている。手元には数枚の写真。映画監督ランズバーグが泥酔し、全裸で女優の卵と戯れている画像だった。噂は流れていた。ランズバーグから電話が入る。「条件が一つ…」、女は復讐をこめた脅迫に取りかかる。 |
灰皿で顔を潰されたパメラの死体が発見されたのは同日夜半だった。脇にはマリファナを摂取し意識朦朧とした一青年マックスが倒れていた。青年は地元チンピラ・グループ「アナコンダ」入団を熱望しており、度胸試しを兼ねて偶然選ばれたパメラ邸に侵入したところだった。市警のマックス警部は不意を打たれた青年が逆上し女を撲殺したと考えていた。だが麻薬捜査のためロスを訪れていたFBIのロークは遺体発見現場の状況に幾つか不審な点があることに気が付いていた。
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脅迫されていた映画監督、その妻でパメラと対立していたスター女優ノーマン、パメラに飼われていた美形のジゴロ、手酷い扱いを受けていた秘書、謎めいた言動を見せるパパラッチ写真家…パメラの死を望んでいる者の数はハリウッドの人口と同じだけいそうだった。ロークはロス市警には何も告げず、単身で事件の解明に取りかかる。パメラがネックレスに付けていた書類棚の鍵がなくなっていた。誰かが書類一式を持ち去っていた。ハリウッド関係者の仕業?容疑者が特定されようとした時、第二の殺人が勃発した… |
1960年代を通じて叢書スペシャル・ポリスを支える作家となっていくサンモールが残した初期作品の一つ。アメリカを舞台としていますがFBI捜査官ロークの論理の組み立て型はかなりの英国風、英系ミステリと米ロマン・ノワールを折衷した感触が残ります。 |
パメラの造形は「お喋りおばさん」ヘッダ・ホッパーや「私はコラムニストです」ルエラ・パーソンズを下敷きにしており、スタンバーグに似た監督やザナック(セルズニック?)に似た大物プロデューサーが登場するなどハリウッド黄金期の裏事情を上手く作品細部に活かしています。当時の映画に思い入れのある人なら「あるある」「ないない」と突っこみを入れながら夢中で読み通してしまいそうです。 |
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