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仏北部のノルマンディ地方、ユール県の小さな田舎村、村人たちが酒場に集まっていた。 |
カミーユのコンサートに同伴したアダムスベルグ警視.。椅子の奥で会話に耳を傾けていた。「誰が死んだんですか?」、そう尋ねると地方誌が回ってきた。写真には一頭の大きな鹿の死骸。「猟師の仕業じゃねぇ、心臓を取り出すなんてな」、村人たちが低い声でコメントしていた。 |
パリに戻ったアダムスベルグ。死体安置所には喉を切られた青年二人の死体が眠っていた。 |
麻薬捜査班は「違法薬物の売買をめぐるいざこざ」で片付けようとしていたが…アダムスベルグは納得できなかった。死体の指の爪に残っていた土。家庭菜園を趣味にしている連中には見えなかった。二人が何者かの指示でモンルージュの墓地に侵入、墓石を開いていた事実が判明する。 |
類似の墓荒し事件がノルマンディでも発生していた。アダムスベルグは部下ダングラール、ヴェイレンクと共にユール県に向かう。墓を荒らされた二人の女性は三十代後半、異性関係がないという共通点があった。アダムスベルグは村を離れた元司祭の家を訪れ話を聞いていく。司祭が「これは珍しい書物なんですよ」と一冊の古い文献を取り出してきた。 |
『聖遺物について』1663年版。事件の謎を解く鍵がここに隠されていた。「処女の精」を「永遠の森に生きる十字架」と混ぜあわせることで、不死の生を手に入れる秘薬が手に入る。「永遠の森」は古代に聖なる動物とみなされてた「鹿」を意味していた。鹿殺し事件もまた同一犯の仕業。だが書物には「三人の処女を」と書かれていた。もう一人、次の犠牲者?アダムスベルグは第三の凶行を防ごうとする… |
ヴァルガス第10長編。米系スリラーの雰囲気を組みこんだ前作と趣を買え、考古学・文献学の要素を自在に組み合わせた旧作のタッチに戻っています。考古学者三人組のマチアスも顔を出し初期作からの愛好家を喜ばせてくれます。一方捜査メンバー(エステール、ルタンクール、猫のブール…)の重要性が増し、以前ならアダムスベルグ/カミーユ/ダングラールで完結していた物語世界が一挙に拡大しました。ヴァルガス作品としては「中の上」と言った出来栄え。 |
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