雪は汚れていた
〔1950年オンエア〕

ジョルジュ・シムノン原作(1948年)
フレデリック・ダール脚色
     ラジオ、第二次大戦、秘密売春窟
闇市場、地方主義

〔オンエア〕 1950年11月27日
RTF局
監督:レイモン・ルロー&ピエール=クリスティアン・ルナール

La Neige était sale (extrait) / Georges Simenon
Adaptation : Frédéric Dard
le 27 novembre 1950.
Radiodiffusion-télévision française (RTF).
Réalisation : Raymond Rouleau & Pierre Christian Renard

【試訳 (引用1)】
(近づいてくる足音)
「止まれ!」
 
語り手: 皆さま、今御覧になっているこの人物はあともう少しで銃殺されます。名前はフランク・フリートマイエール。20才。人道に立って考えるなら、この運命は彼に相応しいものだと言えましょう。いかなる裁判所であろうと私と同じようにこの男に死刑を宣告するはずです。状況を鑑みるなら、遺体を〔葬儀のため〕起こそうと考える者など誰一人いないはずです。誰一人。おそらく本人でさえも。諦念に身を任せたというのではありません。違います。この男の場合もっと複雑なのです。この青年は〔死を〕受け入れたのです。御覧ください、彼は〔死を〕受け入れたのです…
 
銃声。
 
語り手: 終わりました。フランク・フリートマイエールは死にました…
 

【試訳 (引用2/続き)】
語り手:…今後、彼の話をする時は過去形で語られていくのです。全ての発端は何だったのでしょうか。青年の母親は…
 
ロット: シャルロット・フリートマイエール。「ロット」の愛称で知られています。43才です。
 
語り手: 売春の公式記録に名前こそ残していませんが、シャルロット・フリートマイエールは16才の時から体を売って生きてきました。金持ちの愛人が沢山いました。その後はそれほど裕福ではない愛人を持ちました。売春を始めた当初は警官の愛人が一人いて、厄介事に巻きこまれるのを避ける手助けをしてくれました。自分の息子を医者か弁護士にしようと夢見ていたのですが、当の息子は嫌がっていました。フランク君は子供時代を過ごした田舎を離れた時に〔事実を〕知ってしまいます。もしかすると、毎日曜に母親と会った時、いつも同じとは限らない男性と一緒だったのを見た時から分かっていたのかもしれません。自分の母親が「これが息子のフランクです」、そう男性に紹介した時に…。戦争が始まって母親の部屋が秘密のサロンに変わります。お腹を空かせた娘たちがいました。飢えた娘たちが沢山いて、娘に飢えた裕福な士官が沢山いました。
 
ベルタ: 名前はベルタです。両親は農業を営んでいます。
 
語り手: 3ヶ月前、少女はこの時間帯にニワトリに餌を与えていました。ニワトリたちの理解できる言葉で話しかけてやっていたのかもしれません。彼女は…

【原文】
"Halt!"

Narrateur: Mesdames, messieurs... l'individu que vous voyez ici va être fusillé dans un instant. Il se nomme Frank Friedmaier. Il a vingt ans. Aux yeux des hommes, il a mérité son sort. Et n'importe quel tribunal l'enverrait à la mort comme je l'ai fait. Personne ne songerait à lever le corps des circonstances atténuantes, personne! Pas même lui...ce qui ne signifie pas qu'il se résigne...non, son cas est beaucoup plus complexe...il accepte...regardez-le, il accepte...

Narrateur: Voilà qui est fait. Frank Friedmaier est mort... Désormais, on peut plus parler de lui qu'en imparfait... Quand tout ça a-t-il commencé? Sa mère... :

Lotte: Charlotte Friedmaier, plus connue sous le nom de Lotte. 43 ans.

Narrateur: Charlotte Friedmaier n'a jamais été inscrite sous le registre de la prostitution. Et pourtant, dès l'âge de 16 ans, elle a vécu de son corps. Elle a eu des amants riches. puis des amants moins riches. Un fonctionnaire de la police, qui a été son amant au temps de son début, est intervenu plusieurs fois pour lui éviter des ennuis. Elle a rêvé de faire son fils un médecin ou un avocat. Et son fils n'ai pas voulu. Dès qu'il a quitté la campagne où il a été élevé, Frank a su... Peut-être savait-t-il déjà quand il venait de la voir les dimanches, avec un monsieur qui n'était pas toujours le même, et à qui elle disait, avec une [???] : "Voici mon Frank"... Depuis la guerre a transformé son appartement en salon clandestin, y a-t-il des jeunes filles qui ont faim. Il y a beaucoup de jeunes filles qui ont faim, il y a beaucoup d'officiers bien nourris, qui ont faim de jeunes filles...:

Berta: Je m'appelle Berta. Mes parents sont des paysans.

Narrateur: Il y a trois mois, cette heure-ci, elle donnait un manger aux poules... Et sans doute leur parlait-elle un langage qu'elles comprenaient...
 

【あらすじ】
 公開銃殺刑が始まろうとしていた。銃を抱えた兵隊たちが列になって進んでくる。「止まれ!」、上官の命令に従い足を止める。正面には紐で括りつけられた一青年の姿。強盗及びスパイ容疑での有罪宣告。青年の名はフランク・フリートマイエール。物語は彼の軌跡を辿っていく。
 独軍占領下、フランクの母親は秘密売春窟を経営していた。19才のフランクは娼婦たちと楽しい時間を過ごしていく。兄貴分に当たるフレッドともレストランでよく顔を合わせていた。見栄を張りたいがためにフランクは悪事に手を染めていく。深夜、独軍士官を刺殺、死体から拳銃を盗み取る。馴染みの時計商宅に侵入、強盗を働き、目撃者を殺してしまう。
 殺人者となってからフランクの人格そのものが大きく変わってしまう。自分に想いを寄せてくれていた娘シシーとの関係が揺らぎ始めていた。シシーを誘惑、巧みな口約束で自宅に誘いこむ。フレッドとは予め計画を練ってあった。部屋の暗闇の中、ベッドでシシーを襲ったのはフレッドだった。事実を知ったシシーは半狂乱のまま通りへと飛び出していった…
 悪徳の道は長く続かなかった。強盗殺人とスパイ容疑で逮捕される。獄中で沈黙を守りつづけるフランク。ある日、父親に寄り添われたシシーが面会にやってくる。「それでもまだ愛している」。女の言葉は衝撃だった。面会終了後、フランクは自分の犯した罪を告白する。死刑確定などどうでも良かった。ようやくお天道様を直視できる、青年の心は死を前にむしろ晴れ晴れとしていたのであった…

【補足】
 シムノン最初期の一作(第3長編)を後の人気作家フレデリック・ダール(=サン・アントニオ)が舞台用に脚色したもの。有名な一作でフランス語版だけで47万部を売り切っています。1954年に映画化。70年代には集英社から原作版邦訳も出ています。演劇版は1950年12月に初公演、それに先立つ11月末にラジオ版が先に公開されました。
 メグレ警視型の純ミステリではありませんが、独軍占領下の街を背景に特殊な犯罪模様が描き出されています。中心となっているのは主人公フランクの屈折した心理と行動。怪しげな商売に手を出している兄貴分のフレッド、売春窟で体を売っている少女たちの物語を含めてある時代のミクロコスモスが綺麗に浮び上がってくる仕掛けになっています。
 採録したのは冒頭部。フラッシュが重くなったので2つのファイルに分けてあります。銃殺部隊の行進を音で表現、観客に向けたスピーチが行われていくのですが、途中で語り口とBGMが変わって説明風の物語・登場人物紹介に移っていきます。テキスト採録は個人の耳によるもので何ヶ所か曖昧な部分があります。誤りなどありましたら御一報いただけると嬉しいです。なおこのラジオ版は現在INAにも置かれており、以下のリンク先で全体を聴くことが可能です。

Photo : "The Seventh Victim" / Mark Robson, 1943
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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