トレゴール事件
〔2009年〕

ダニエル・ブランシャール
     技法主義(ブルターニュ)、私立探偵物

[初版] 2009年
ポルトスのアトリエ社 (トレレヴェルン)

L'Affaire Trégor / Daniel Blanchard
-Trélévern :Editions Les Ateliers de Porthos.
-182p. -15 × 21cm. -2009.

【あらすじ】
ごつごつした岩にはりついた牡蠣に荒々しい波が打ち付けている。物怖じした様子一つなく、一羽のツグミが不思議そうな目でこちらを見つめていた。大小様々なユリカモメたちが空を待っている。初めて訪れたトレゴールは鳥たちの楽園だった。観光に来た訳ではない。「ナタリーという身持ちの良くない娘に惚れて家を出た弟の行方が分からなくなっている。探し出して欲しい」。8千ユーロの報酬で失踪人探し、調査の取っ掛かりが何一つない。ナタリーの兄だというセルジュ青年に接近を試みていく。  
セルジュ青年は一艘の小型船を所有していた。「静かに海を見たいんだ」、適当な口実をこしらえ上げ、世間話などしながら情報を探っていく。夕食に招待してもらい、海辺に面した小さな家に上がりこんでいく。「何してるの?」、女性声の詰問に振り返る。ジャンヌ・ダルク風の髪型、チェ・ゲバラTシャツを着た若い女が立っていた。なるほど。失踪人が惚れこんだというナタリーだった。  
セルジュ青年には身元と今回の来島の目的を説明しておいた。失踪人が住みこんでいた部屋を案内してもらう。ベッドの下に腕時計が落ちていた。「ロレックスはオリックスは違うよね。外に出るときそう忘れる物ではないと思うのだけれど」。何者かに拐かされたのではないか。内情を知るにつれ嫌な予感が高まっていく。  
依頼人から電話があった。パリの駅で失踪人のトランクが見つかった?どう考えても意図的な誘導だった。失踪事件解明の鍵は紛れもなくこの島に隠れている。ナタリーの友達という二人組の若者がおかしな動きを見せていた。何らかの形で事件に絡んでいるはず。そして早朝、海草の合間に漂っているうつ伏せの死体。業を煮やした犯人側が口封じを始めていた。当然のその魔手は私にも伸びてくる…  

【引用】
 「ナタリー、君の試練はまだ終わっていないと思うんだ。正直言うと。彼が君を愛していた気持ちは本物だった。船旅を準備していたのも相手が君だったからに他ならない訳で。失踪は彼の本意によるものじゃない。なぜ?誰が?私は君のお兄さんと一緒にそれを探し出そうとしているんだ(…)」
 「愛していた。過去形なんですね」
 

【講評】
08年の『アマゾン』で登場した作家探偵ドゥアディク物の第2弾。ブランシャールは現仏ミステリ界で五指に数え上げられる饒舌かつ美麗な筆致の持ち主で、突き抜けた明るさで350〜400頁の物語を語り上げていきます。本作のミソは作家が初めて200頁弱のコンパクトなフォーマットに挑戦したところ。事件の起承転結に焦点を絞ったソリッドな仕上げに向かったのかな、一瞬そう思ったのですが読後感は若干違いました。  
特に前半部、探偵による調査がほとんど進みません。「観光編」と呼べそうな記述が散見され、郷土料理やら風光明媚やらの紹介が行われているせいでもあるのですが、それ以上に気の効いたお喋りがてんこ盛りになっているからです。「おいおい事件はどうなった」、クスクス笑いながら突っこみを入れ続けていました。  
このノリで最後まで行くのだろうなと読み進めていった後半部で事件がにわかに動き出し、ストンストンと冴えた落ち(しかも2段落ち)が来ます。言葉遊びと洒落に埋もれていて完璧に見落としていましたが綺麗な伏線も張ってありました。『女殺し屋ミュレーヌ』と『アマゾン』の唯一の欠点となっていた「ありえないほどのハッピーエンド」も解消され、今回はややほろにがなビターエンド。観光ミステリと侮るなかれ、作家としての成長と展開を垣間見せてくれる一本勝ちの内容、決め技は「洒脱な大人のロマンティシズム」です。  

【最終更新】 2010-02-18
Photo : "Brute Force" / Jules Dassin, 1947
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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