死が好き大好き止まらない
〔シーズン1〕

アレクシス・ブロカ著


〔初版〕 2009年
サルバカヌ社 (パリ)
叢書 エクスプリム


La Mort, j'adore ! : Saison 1 / Alexis Brocas
-Paris : Editions Sarbacane.
-(eXprim').
-304p. -19 ×13cm. -2009.


   

 鍵はかけておいたはずだった。肩で玄関の扉を押し開く。部屋中央のソファー、ライターを手に少女が座っていた。にきび面でメタボ気味の少女。男がジャーナリストだと知っている様子だった。「独占インタビューをさせてあげます」、録音機材を持ち出してくる。17才の女子高生クレマンスはある日「自分が悪魔」だと思い出したそうである。冗談だと思った。悪ふざけだと思った。心を読まれたようだった。「華氏212℃!」、少女の言葉と共にルーン文字が飛び跳ねる。壁際の水槽が沸騰、男が大切に飼っていた熱帯魚がポップコーンのように跳ね飛んでいった。

 徹夜のインタビューが始まった。いじめられっ子だった中学生時代。美形の親友エロディが同級生の視線を集めていたのと裏腹に誰にも声をかけてもらえなかった。「友達がいないから」の理由で携帯電話さえもたせてもらえない。状況が変わったのは15才、友人宅のパーティーだった。ビールで泥酔した少女はトイレで意識を失ってしまう。20分呼吸が停止。目を覚ました時、悪魔としての過去が蘇ってきた。

 地獄と呼ばれている場所で悪魔たちは生存競争を続け、生き残ったエリートが「敵」-神と天使たちーを滅ぼす活動に送りこまれている。少女は運良く生き残った一人だった。言葉で事物を変容させ、至近距離で人の心を読み、瞬間移動と飛翔を行い、人の恐怖心を吸い取っていく。覚醒は偶然ではなかった。ある日、鏡を覗きこむと鏡像が手を伸ばしてきた。鏡の内側に引きこまれる。主人クレピトスだった。第一のミッションが伝えられる。1960年代にアマゾンで発見され、最近までバチカン資料庫で眠っていた「神の見える薬草」を焼き払えという内容だった。元親友のエロディを人食い鬼の従者に変え、少女は第一のミッションに乗りこんでいく。だが悪魔殲滅を目論む敵たちの罠が隠されていた…

 絶好調エクスプリムから公刊されたアレクシス・ブロカ第2長編。非常にポップな都市型ゴシック・ファンタジー、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイアー』や『吸血キラー/聖少女バフィー』で育ってきた世代には肌になじみ染み渡る面白さです。

 対象年齢15才以上のヤングアダルト作品で、中高生が誰でも抱えていそうな悩み(能力の限界、家族問題、友人関係、恋愛)が物語の核に組みこまれています。腐女子の覚醒(「みにくいアヒルの子」)は人知を超えた存在者を生み出して次のステップに向かっていく。現代風のB級ビルドゥングスロマンでありながらゴス系〜黒系の感性(=内側に抱えた「死」の外在化・装飾化)を上手に絡めている辺りが大したもの。続編シーズン2が2010年初頭に出るそうなので期待しましょう。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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