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悪の天使
〔2008年〕 |
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ジル・カイヨ著 |
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フレンチ猟奇スリラー、暗号学、プロファイリング |
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ミステリ出版社 (パリ)
叢書ノワール |
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L'Ange du Mal / Gilles Caillot
-Paris : Editions du Polar. -(Le Plessis Robinson).
-279p. -14×22cm. -2008. |
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【あらすじ】 |
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蝋にも似た肌をねばねばした液体が覆い尽くしていた。傷跡、体中の穴に虫たちが入りみモゾモゾと蠢いている。悪臭。そして頭部がなかった。06年7月末、リヨン郊外の森で女性の惨殺体発見。指紋はすべて削り取られ、歯を潰されていたため身元の特定は困難だった。「司法解剖医のジュリからこの写真が」。ミーティング中、特捜班のザネッティ警部は一枚の写真を回覧させていく。被害者の胃から発見されたガラス小瓶には暗号の刻まれた羊皮紙片が収められていた。 |
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直後、死体と犯行現場を写した数枚の写真が女性新聞記者クロチルドの元に届けられていた。送り主の名にザネッティの名が使われていた。なぜ犯人は警部の名を用いたのか?自分の扱った過去の事件と結びついているのではないか、ザネッティは古い資料を漁っていくが…該当する案件は見当たらなかった。8月半ば、リヨンから数キロ離れた公園で第2の死体発見。首の切断に指紋の除去、手口は同一だった。しかし今回の被害者は背中一面に小さな孔が穿たれている。何か格子のようにも見えた。解剖医のジュリーはこの発見をザネッティに伝え、お互いの意見を交わしていく。 |
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被害者の背に穿たれていた孔は羊皮紙の暗号を読み解くための解読格子だった。暗号研究の専門家でもある部下リュシーの報告によると、解読されたテクストは黙示録の一部を改編し、「主たるサタン」の再来を告げる内容となっていた。捜査が難航する中でザネッティは犯人を罠にかけようと画策、女性新聞記者クロチルドの協力を得て「犯人は致命的な過ちを犯した」と殺人鬼を挑発にかかる。敵が挑発に乗ってきたのは計画通りだったが…相手が一枚上手だった。クロチルドをガードしていた警官が刺殺され、女性記者は誘拐後に拷問を受け、四肢と頭のない遺体として発見される… |
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【引用】 |
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男は噛みちぎった乳首を口に含んだまま、女が呻き声をあげ、激痛に身を引きつらせている様を凝視していた。せせら笑い、肉片をクチャクチャと噛んでから一息で呑み下す。
「どうよ、なかなかの珍味じゃないか。おまえ欲しいか?まだ一つあるだろう?」
(158ページ) |
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【講評】 |
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トマス・ハリス、スティーヴン・キング、グランジェ辺りに強く影響を受けた仏新世代猟奇ミステリ作家の一人ジル・カイヨの処女長編。解剖学や暗号学の下調べが丁寧にできていて描写に説得力があります。捜査プロセス、共同作業の役割分担や上下関係の動きも綺麗に書けているな、と。2作目の『想起』を先に読んでしまったのですが、完成度と流れの巧さはこちらの方が上でした。 |
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上のあらすじでは省略した(本編1/3近くを占める)殺人鬼視点の描写ではサディステックな拷問・レイプ場面が延々と続き、鬼畜めいた言葉がこれでもかこれでもかと力技で連ねられています。明らかにやりすぎ(で何かが足りない)。グランジェやティリエスは即物化された死体をオブジェクト指向で視覚描写していくのを得意としていましたが、ジル・カイヨにはそこまでの美的センスはありません。でもこの完璧にアメリカナイズされていない不器用さが作家の個性になっているのが不思議なところです。 |
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【最終更新】 2010-01-24 |
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