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僕の想いは狂ってる
〔2009年〕 |
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アクセル・サンドル著 |
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ダークメンタル現代ファンタジー、ブラックユーモア
バロウズ〜ブコウスキー、精神病院、アル中&薬中 |
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サルバカヌ社 (パリ)
叢書 エクスプリム |
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Mes idées folles / Axl Cendres
-Paris : Editions Sarbacane.
-(eXprim').
-189p. -19 ×13cm. -2009. |
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【あらすじ】 |
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医学部で精神医学を専攻、卒業後は大病院に勤めて目立たず生きていこうかと画策していたのも束の間、医学雑誌の人材募集欄でもっと自分向きの仕事を見つけた。電車で一時間、駅で降り、森を抜けて歩くこと約半時間。重度のパーソナリティー障害者を集めた小さな建物が建っていた。パヴィヨン43。「この仕事場にいても将来性はまったくないけどね」、前院長から釘を刺されたのだけれど、特に誰を治すでもなく人間観察に埋没できるこの環境こそ僕が望んでいたものだった。 |
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一日二度の回診、臨床セッション、インターフォーン越しの応対。患者数は20名。自分をナポレオンだと信じている男、キリストの再来、ティーポットになりきってしまった女、未来からやってきた男、自称猫…病棟はなかなかに賑やかだった。自室に帰ると友人のジョニーがまた怪しげな金稼ぎの計画を練っている。学生時代からの腐れ縁、一緒にありもしないボランティア団体を捏造して小銭稼ぎしていたこともあった。ウォッカの封を切りながら、僕は友人の話を熱心に聞き流していく。 |
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「会議の出欠どうされますか?」、事務室の方から質問があった。「会議?」。資料なんぞ読んじゃいない。土日まで仕事で潰れるのは願い下げ、一旦は断ったのだが…パンフレットに踊っていた「湖畔の豪華ホテル」の文字。「あいや、やっぱり行きます」。「奥さんもご同伴で?」、「いや、独身なんで…」。結局友人ジョニーを連れていくことに決めた。プール付きの四つ星ホテル、二人は講演会そっちのけで極楽生活をエンジョイし始めるのだが… |
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【引用】 |
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1. あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない。了解。
2. あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。オッケー。
3. 安息日を心に留め、これを聖別せよ。問題ナッシング。
4. あなたの父母を敬え。おらにおっとうもおっかあもいないよ。
5. 殺してはならない。超余裕。
6. 姦淫してはならない。了承。彼女が出来る気配すらないっす。
7. 盗んではならない。心配無用。盗むような物は何もないですー。
8. 偽証してはならない。らじゃー。証言してくれと頼まれた試しがない。
9. 隣人の妻を欲してはならない。はいはい。カミサンのいる友達は一人もいないぞ。
10.
隣人のものを一切欲してはならない。欲しくなる物がない訳で…(22〜23ページ) |
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【講評】 |
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本サイトにも短編翻訳を掲載させていただいているアクセル・サンドル女史の第2長編。うさぎ頭の素敵な表紙が内容を的確に要約しています。アル中二人組が豪華ホテルに雪崩れこみ、お気楽極楽の珍騒動を起こしていく流れは短編「僕のヴァカンス」と同型。本作の方はまだまだ話が続き、主人公が担当していた患者の失踪事件、家主の娘さんとのトラブル、プライベートな恋愛模様など織りまぜながら「僕」が一旦クラッシュしまう展開に持ちこんでいきます。 |
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メールでやりとりさせて貰ったときにアン・スコットの話で盛り上がったのですが、クラブカルチャー系統のルーザーを描き出していく感覚はやはりスコット作品とリンクしています。さらに本作にはブコウスキーや初期バロウズ(「ジャンキー」「神父と呼ばれた男」)辺りの影響も見え隠れしているようです。 |
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いずれにせよ、シュレーディンガーの猫や十戒など小ネタを出し惜しみせず、ちょっとファニーでちょっと悲しい「僕たち」の物語を紡いでいく、というアクセル・スタイルは確実に完成度を高めています。酒と薬と音楽にまみれた遊び心満載の賢者。時代の寂寥感を透明度の高い言葉遣いで組み立てていくこの才知、力量は要チェックです。 |
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【最終更新】 2010-02-06 |
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