この家族の方々

ノエル・ヴェクサン (=アンドレ・エレナ)著


[初版] 1956年
ディティス社 (パリ)
叢書ラ・シュエット 27番


Ces messieurs de la famillel / Noël Vexin
-Paris : Editions Ditis. -(La Chouette; 27).
-190p. -1956.


   

 朝の風が身を切るようだった。教会の壁に肩を寄せる。何本目かのマッチでようやく火がついた。亭主持ちの女の部屋からの帰り道、殺伐とした一角に不意に立ち現れた物陰。走り去っていく一人の少年。夢だろうか?さらなる驚きが男を待っていた。教会入口に落ちていた純金製の聖体器。目を上げると3人組の黒装束が盗品を抱え、先ほどの少年を拐かして霊柩車に向かっていた。黒装束の一人が襲いかかってくる…

 目を覚ますと冷えた地面に倒れていた。頭がズキズキしている。教会での金品強奪事件、司祭殺し、現場を目撃した少年の拉致事件。男は警察に通報を入れた。「名前、住所、職業を」、「ヴァランタン・ルーセル。レンヌ通り104番地、弁護士」。調書作成は終わっても男の憤りが納まりそうになかった。何としてもこの借りは返しておきたい。新聞記者の友人の手を借り、記事の末尾に「目撃者は相手の顔を覚えており、犯人特定は容易」の一文を付け加えてもらった。

 新聞社食堂で若い女性記者と知り合いになった。ロベルトという名前だった。半ば条件反射で口説き始めてしまう。夕食を一緒に、何とかそんな約束を取り付けた。タクシーで動こうと思ったが女がバイク持ちだそうなので後部座席に同乗させてもらう。弁護士事務所まで送ってもらった。6階事務所には大型のリヴォルヴァーを手にした二人組が待ち構えていた…

 アンドレ・エレナが56年に開始した新シリーズ「弁護士ヴァランタンの事件簿」の第1弾。足掛け5年、計17作が残された連作には有名な『ピガールに落ちる』他が含まれています。本作は葬儀屋を隠れ蓑とし、盗品移送用に霊柩車を用いる悪党一味との駆け引きを描いたもの。

 主人公の楽天的性格が作品の雰囲気を強く支配、速度感のある小気味良い展開が続いていきます。善玉悪玉、主役端役に関わりなくキャラが立っている(主人公を誘惑にかかる喪服姿、主犯格の女性フェリーダ。その配下の敬虔なコルシカ青年。堕胎を生業とするヤク中の産婦人科…)辺りからも新シリーズにかける意気ごみが伝わってきます。

 この快活さ、呑気さ、軽薄さはある種の「闇」を内包、コーティングする役割を果たしています。例えば中盤に登場するヤク中の医者は堕胎手術の失敗をネタにフリーダから強請られています。またフリーダはレズビアンとして位置付けられ、飼っている連れ(♀)との関係が悪党一味の関係に特殊な緊迫感をもたらしています。さらに作品後半には被弾して亡くなったコルシカ青年の葬儀場面が描写され、この際に「パリ中のコルシカ島出身者が集まってきたのでは」と思えるほどの参列者が現われています。普段表立っては見えないマイノリティー共同体の強固なネットワークが実感できる仕掛け。バイセクシャルや薬物愛好家まで含めた多様な形態の「50年代パリ・アンダーグラウンド」がエレナ作品の下部構造であり、軽やかで微笑ましい物語という表層を支える形になっているのです。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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