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大雪の中、真っ暗な木々と教会が見えた。フランスで最も人口の少ない県ロゼール。南仏にも関わらず冬の厳しさで知られており、日によっては最低気温が氷点下10度以下に下がることもある。男が小さな村を訪れたのはそんな雪嵐の夜だった。観光に来た訳ではない。「冤罪を晴らしてほしい」。友人老エミールの息子がこの地で起こった猟奇殺人事件の犯人として無期懲役の刑を受けていた。 |
村長クロードに話を聞くことが出来た。緑の目をしたきれいな女だった。教会脇の立派な家に住んでいる。炭酸水で割ったウィスキーをご馳走になった。猟奇事件の犠牲者は近年村に増え始めているアフリカ系移民の一人。相当の美青年だったそうである。被害者が村長の愛人だったと見抜くまで時間はかからなかった。 |
大雪。立ちこめる深い霧。村から出るのは不可能となった。極寒の中、男は事件のパズルを一つずつ組み立てなおしていく。クロードは村長になる前に医師アンリの力を借りて夫を毒殺していた。この医師は移民たちを使ってヘロイン密造・密売を試みている。猟奇殺人はその口塞ぎに過ぎなかった。だが獄中の青年は誰をかばおうとしているのか?事件の謎が解きほぐれようとした時、数少ない味方の一人だった少女マリアンヌが誘拐されたという連絡が届く…
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作家分身である匿名暗殺者の活躍を描き出した連作の一つ。この暗殺家は瀟洒、冷静殷着、細密、知的で優雅な一紳士。感情にブレのない「クールネス」の塊といった感じ。ところが今回は中盤やや不安定になり、最後は珍しく「義憤」のような強い感情まで湛えています。「お、新展開」と一人小躍りしていまいた。 |
毎度毎度丁寧な舞台設定に感心するのですが、本作も趣向を変えて交通網の遮断された南仏一寒村を上手く使っています(雪景色で展開されるノワール世界。映画版『ピアニストを撃て』のラストシーンからシレイジョル『塹壕の死』までを結びつける重要なトポスの一つでした)。前半やや弛緩した描写が散見されるので満点とはいきませんが、カー中毒者を唸らせるだけの内容にはなっています。
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