ブルー・モンキー

ジョルジュ・ティファニー


[初版] 1964年
フルーヴ・ノワール社 (パリ)
叢書スペシャル・ポリス 426番


Le Singe bleu / Georges Tiffany
-Paris : Editions Fleuve Noir.
-(Spécial-Police; 426).
-218p. -11 × 18cm. -1964.


   

 透明がかったブロンドヘアーの淑女。男たちが露骨な視線を向けてくる。女たちは陰口を叩いている。ローズ=マリーにとって上流階級は居心地の悪い空間だった。銀行家の夫に連れられてパリにやってきたものの、思い出すのは故郷スイスの風景。夫の出張中にオペラ座の『魔笛』公演に足を運ぶ。帰路、運転を間違えた女は治安の悪い一角に入りこみ、当たり屋のロランの毒牙にかかってしまう。

 一週間後、パリ市警ソルグ警視は盗難車を乗り回していた青年4人組を逮捕する。部下と交代で深夜の取調べ、事件の経緯が明らかになっていく。事務所を離れようとした瞬間に電話が鳴った。歓楽街に程近いウドン通りで一青年の刺殺体が発見されていた。部下のピエールと目を見あわせる。ウドン通りは…先程のジャガーが盗まれた場所でもあった。「車泥棒に殺人事件、今日のウドン通りは熱いね」

 現場に直行。被害者の名はロラン・ブージュ。自称音楽家、実際は女に金をせびって暮らしているジゴロだった。死体は枯れかけたゼラニウムの匂いを放っている。ベッドにはセックスの後特有の臭い。だが第3の香りが残っている。ベッドのシーツを嗅いでいた部下のドマリアンが顔を上げる。「これってロシャス社の香水。相当値の張る代物です」

 ローズ=マリー・ラング事件。ソルグ警視は辛抱強くパズル一つ一つを組み立てなおしていく。観劇後のローズ=マリーが折り悪く当たり屋に遭遇、暴行を受けた段階までは明らかになっていた。だが当人のローズ=マリーが失踪。銀行家の夫も所在を突き止めかねていた。レイプされた女の復讐?嫉妬にかられた夫の報復?銀行家の夫宛に届いていた数通の匿名脅迫状。シャンゼリゼに程近いホステス・クラブ「ブルー・モンキー」にローズ=マリー似の美女が姿を現しているとのタレコミだった…

 ベルギー出身の女性作家によるジョルジュ・ティファニー名義の第一弾。1)精神分析家が登場、「トラウマが…」「エディプスが…」を語りはじめる場面が冗長、2)結末にヒネリがない。暗黒小説の話法に慣れていないせいか幾つか欠点が目に留まります。一方で繊細な観察力を有しており、ハッするような指摘を多数収録。「警句の妙」を含め、書き手の潜在能力は相当上位のレベルに位置しています。

 女であること。異邦人であること。ヒロインが抱えこんでいる漠然とした孤独感。排除され、孤立した欲望は「狂」となって回帰してくる…フルーヴ社の愛読者層が諸手を挙げて歓迎する作風とは違う気もしますが、21世紀視点でロマン・ノワールを再読していくとこういった「埋もれた黒」が妙に輝いて見えます。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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