ニーム=サンチアゴ

マイテ・ベルナール


〔初版〕 2004年
ル・パサージュ社 (パリ)
叢書ポラルシーヴ


Nîmes-Santiago / Maïté Bernard
- Paris: Editions Le Passage.
- (Polarchive).
-11×18cm. - 2004.


   

 ほっそりとした男の指、爪は短く切ってあった。近づかないと気付かないくらい微かに香水をつけている。30代、大柄で痩せぎす。片手にノートパソコン、もう一方に鍵束を下げている。こちらに声をかけてくる。「クロエ・ブルジェアドさん?」

 歴史雑誌プロメテウスの依頼でチリのピノチェト独裁政権について書くことになった。最初にコンタクトを取ったのはジャーナリストのラファエル・ラベ。繊細と傲慢を混ぜ合わせた不思議な男だった。クロエは録音機材を手に質問を重ねていく。途中から自分が話している回数の方が多くなっていた。ピノチェト政権下の悲惨をどうしたら言葉にできるのか?答えは出なかった。

 パリ15区。クロエはラベ宅を訪れる。アパルトマン7階、部屋のドアが開いていた。奥のベッドに女の全裸死体が一つ。肌には殴打による内出血。顔も潰されていた。吐き気をこらえながら警察に電話を入れる。受話器を置いて振り返るとドアの手前、怪訝な顔のラベが立っていた。

 取り調べが終わって解放される。ラベは娼婦として働かされている密入国者について記事を書いているところだった。売春ネットワークが警告として死体を放置したらしい。別れ際、男は自室の鍵をクロエの手に押しこんできた。誘惑?二人の関係がゆっくりと絡みあいはじめる。一方売春ネットワークを仕切る「大佐」と「弟子」が一娼婦の抹殺を目論んでいた。大佐のPCデータを盗んで姿を消した女だった。指示を出した男の名前が判明、「ラファエル・ラベ」だった…

 マイテ・ベルナール第2長編。内容の半分近くが恋愛小説として動いていて、そう読んでも面白いです。根幹はデビュー作『亡霊』と同じ。「過去の悲しみ、歴史の痛みをどう受けとめ、伝えていくのか」。処女作が漠とした感じに留まったのに対し、本作は表現にメリハリがついて読みやすくなっています。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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