遁走続くミール宇宙ステーション
のジャズマン亡霊に似て

モーリス=G・ダンテック


〔初版〕 2009年(1月)
アルバン・ミシェル社 (パリ)


Comme le fantôme d'un jazzman
dans la station Mir en déroute
/ Maurice G. Dantec
- Paris: Editions Albin Michel. - 210p. - 2009.


   

 近未来のパリ、郵便局で銃による現金強奪事件が発生。犯人は3万ユーロを奪ってベンツで逃走した。車を運転していたのは共犯の女カレン。レンタカー〜列車〜第2のレンタカーと乗り換え追っ手を眩ませるつもりだった。視線を上げた男。運転席からピリピリした雰囲気が伝わってくる。場をもたせるためにCDを流しておく。神風に似たアルバート・アイラーのサックスが車中に響き始めた。

 二人が出会ったのは「保健衛生再教育センター」と呼ばれる矯正医療施設だった。シロン=アルディス症候群に冒された患者たちが治療を受けている。不治の神経ウィルスでニューロンは日々蝕まれていく。一方この病は脳を活性化させ、現象の背後に存在するデータ・ネットワークを超高速で処理することを可能にした。この特殊能力を悪用し二人は強奪事件を重ねていった。これまでの収穫は35万ユーロ、郵便局の一幕を最後に海外へ高飛びする予定だった。

 第二のレンタカーは南下を続けスペインへと入っていく。アンダルシアのホテルで奇妙な夢を見た。男は人工衛星の中にいた。ミール宇宙ステーションが軌道を外れ、三人の宇宙飛行士が摂氏1,000℃の焼死を免れようと慌しく作業している最中だった。操縦席にはもう一人、金色のサックスを吹きつづける黒人ジャズマンの亡霊がいた。アルバート・アイラー。

 カレンも翌日に同じ夢を見ていた。夢ではなかった。現実にミールは軌道を外れ始めている。このままでは大気圏で燃え尽きてしまうはずだった。3人の宇宙飛行士を救えるのはただ一人、「天使」アルバート・アイラーだった。人工衛星を護ることでアイラーは初めて自己の死を「償う」ことができる。しかしそのため「仲介者」、男とカレンが必要だった。二人が現実世界で辿っていく軌跡(フランス〜スペイン〜アフリカ)が天才サックス奏者の死の謎、メタレベルと重なりあう時、初めてアイラーの霊は安らぎを見出すことになる…

 1996年にセリ・ノワールが短編アンソロジー『アルバート・アイラーの13の死』を企画、ダンテックにも執筆依頼が届くのですが紙数を大幅に超過、締切りを守れなかったため却下されてしまいます。この原稿を焼きなおしたのが本作。前半が『レッド・サイレン』期、物語に形而上レベルが介入してくる中盤以降が『バビロン・ベイビーズ』/『ヴィラ・ヴォルテクス』に対応、前半で記述された強盗劇〜逃避行が綺麗に伏線として収斂していくメタパズルの構成を備えています。

 一方『アルテファクト』の怪しげなサイバー神秘主義ですが今回は抑制され、小出しにされ、ちらつかされている感じ。例えばアイラーの死を償うために他の何かが犠牲にされなくてはならない、そんな「贖罪の論理」はエントロピー理論と重ねあわされ作品にゼロサムゲームの面白みを与えています。例の日記シリーズに真顔で書かれると電波系ですが、虚構の細部に組みこむと強力な「ギミック」となる。12年寝かせただけある熟成の仕上がりとなりました。


Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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