終猟期
ジャン=ポール・ドゥミュール著

〔初版〕 1998年
ペイヨ&リヴァージュ社(パリ)
叢書 リヴァージュ・ノワール 289番

Fin de chasse / Jean-Paul Demure
-Paris: Editions Payot & Rivages.
-(Rivages/Noir; 289).
-251p. -17 × 11cm. -1998.

   

 秋の太陽が森を照らし出していた。
 南仏アルデッシュ。猟犬を連れて集まってきた数人の男。郵便配達人のヴィダル。岩陰に身を隠す。地面が揺れる感覚。今日の獲物は猪ではなかった。大地主のブレリユだった。ブレリユを射殺する。家に戻って母親に「今日は子豚を三頭に…野蛮な生き物を一匹殺したよ」と告げる。母親は分かってくれた。
 過去に遡っていく。一人の青年が農林水産局の実習生としてやってきた。名前はセドリック。マルセイユ育ちの好青年。今月はジャガイモに干草作り。
 「来月は?」
 「羊飼いの演習でペイロルまで」
 「ブレリユの所か?」
 地元に残りつづける古い恨み辛み、対立関係。無邪気な青年は自分が地元の対立関係に巻きこまれていくとは考えもしていなかった。
 田舎のあばら家。半ば廃人と化し動けなくなった青年。暗い部屋、女が手にした木の棒は「ウサギを屠殺するように」振り落とされる。うなじの骨の鳴る音が一度。
 土地をめぐる権利争いが続いています。街からやってきた侵入者に村人たちの感情はかき乱されていきます。大地に根づいた人たちのプライドが傷つけられ、予想もしなかった悲劇を生み出していくのです。そして壁の奥では近親相姦が。全ての要素が混じりあい生々しい言葉づかいで表現されているのが秀作『終猟期』でした。
 90年代末、地方主義という旗の下、地元礼賛を重ねていく自称「地方主義ミステリー」が氾濫していていた時期、ドゥミュールは内側の者にしか見えない世界をフッと描き出し、それを綺麗な黒の物語にまとめ上げていきました。『ミラクさんの復讐』と対を成す90年代ドゥミュールの代表作。

Photo : "The Doorway To Hell" / Archie Mayo, 1930
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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