2009

ジプシーの街で
〔2009年〕

ジャンニ・ピロッジ
     ユーロ・ノワール(コソヴォ、ブダペスト、ブカレスク
ソフィア)、武器密輸、人種差別主義、ナショナリズム

リヴァージュ社 (パリ)
叢書 リヴァージュ・ノワール 756番

Le Quartier de la Fabrique / Gianni Pirozzi
-Paris : Editions Payot & Rivages.
-(Rivages/Noir; 756).
-351p. 11 × 17cm. -2009.

【あらすじ】
 親族から距離を置いて、故人の友人だったローゼンが立っていた。1999年9月。レンヌ郊外の小さな教会でひっそりと葬儀が執り行われていた。「オーギュスト・リネッティ:1967-1999」。遺族へのお悔やみの言葉、不躾だとは分かっていたがリネッティの亡くなった状況を尋ねてみる。南仏、高速道の路肩で車が炎上。焼死体で発見。元妻との間にできた子供を預かっていたのだが、少年の方は消息を絶っており地元警察による捜索が続いているそうだった。  
 遡ること5ヶ月前。リネッティは「ネットワーク」の元同志デ・サンティスから仕事の打診を受けていた。「東欧。お前さんの十八番だろう。力を貸してもらえないか」。AK47カラシニコフ、107mmカチューシャ・ロケット…。総重量にして500kgの武器。国連軍によるユーゴ爆撃がメディアを賑わせ、誤爆による市民の被害が取りざたされる中、「コソヴォの少数派に自衛の可能性を与える」ための地下活動が動き始めていた。  
 4月21日。武器一式を載せた二台のトラックがハンガリーのブダペストを出発した。移民の流出や不法な動きを抑えるため、ユーゴ国境にはどこも厳密な検問が敷かれていた。デ・サンティスの指示の下、リネッティ一団はユーゴを北〜東〜南と迂回する2000キロ強のルートを取り、最後に北上する形で現地の同志に合流する予定になっていた。トラックのナンバープレートを変え、車中泊を重ね、検問では「人道的援助のために衣料・食料を運んできた」と白を切っていく。  
 不協和音は絶えなかった。それでも次第に仲間内での一体感が生まれ、プライベートな悩み事など共有する一瞬さえあった。前妻との関係がこじれ、実の息子と会うことも難しい状況になっている、そんな話をクラヴァンにだけはしておいた。5月2日、一日遅れではあったが元妻に電話をいれ、息子の誕生日を祝っておいた。コソヴォに向け再出発。だが目的地直前にして黒頭巾姿の武装集団に把捉され一台目のトラックを破壊される。残りの一台も事故で大破、怪我を負ったリネッティは地元のジプシー一家に救出され一命を取り留めるのだが…  

【引用】
 カウンターにひじを突いたリネッティ。床から拾い上げたカラシニコフノの薬莢を機械的にいじり回していた。長さ4センチほどのくすんだ銅。側面にじっと目を落とす。「71.56」の数字が円形に刻まれていた。(214ページ)  

【講評】
 5年ぶり、ですね。ジャンニ・ピロッジ第3長編。いきなり前2作の主人公の片割れだったリネッティの葬式場面から始まったので驚かされました。物語の形としては友人の死、その息子の失踪事件を旧友ローゼン警部が-解決するのではなく-「理解する」という展開に持っていきます。  
 作家は99年、コソヴォ紛争が激化していた中で実際に東欧に足を運び、雑誌にレポートを残しています。「20世紀最後の悲劇」をリアルタイムで目の当たりにした証言者の一人でもあり、作品の8割方を占める「東欧編(ハンガリー〜ルーマニア〜ブルガリア〜マケドニア〜アルバニア)」はその意味で強い説得力を持っています。  
 作品の冒頭と結末に発生している「男の死に様をめぐる悲しみの物語」、作品本体部で描かれる「歴史の悲劇を内側から生き抜いていく物語」。個の物語と歴史の激動とを重ね合わせていこうとする傾向は前作『ホテル・ヨーロッパ』から顕著になったもので、物語のダイナミクスのレベルでは前作以上に複雑な流れをコントロールすることに成功しています。  
 一方でこの二つの視点のバランスが時折崩れているように見える弱点が残っています。淡々とした切ない独白部と「戦う作家」としての熱い語り口がまだ綺麗にまざりあっていない感じ。両者の兼ねあいが綺麗に取れているのがプロローグ第1節に当たる5ページ相当で、この冒頭部はドミニク・マノッティの最良のテクスト(『我ら金塗れの幻想的な年月』、『ロレーヌ・コレクション』)に匹敵する強度を備えています。さすがですね。まだまだ伸びしろのある作家、どんな高みに辿りつけるのか楽しみにしています。  

【最終更新】 2010-02-03
Photo : "Brute Force" / Jules Dassin, 1947
] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010

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