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15分だけね
フランシス・ミジオ作

〔初出〕 1996年
『ビュット・ショーモンの戦い/15分だけね』
ティエリー・ジョンケ&フランシス・ミジオ
ルピオット社 叢書ゼブル 3番


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 鳥女は驚いた表情で僕の顔を見つめた。ゴム男の死体から視線を上げる。僕は役に立てた満足感で一杯だった。 

 「本当に殺すとは思ってなかった。…ねぇ、私のため?」 

 胸が詰まって涙が出てきた。

 「だって君を好きだから」、叫びに近かった。「君のためなら何だってする。どうして姿を消していたの?どうしてブラジル・ツアーを引き受けたの?」 

 言葉を失った女。数歩後ずさり。トサカが一瞬で色褪せる。首をひねると頬を肩にこすり付けた。困った時の癖だった。何も言わず鏡付きのタンスへと飛び移る。 

 「二人で出発しよう」、金を握り締めた僕。「別世界で愛の巣を作ろう」 

 女のため息が一つ。 

 「本当に好きだっていうなら話を聞いてね。理解してほしいの」 

 特別な日だと予感はしていた。来るべき瞬間が来た。心を集中させる。最悪に備えた。 

 「あのね」、呟くような女の声。「他に好きな人がいるの」 

 ボーン!と一発。最悪だ。 


 僕: 9月になった。数日間の休みを取ることにした。ポーランは鳥女とゴム男と一緒にブラジル・ツアーに出発することになっていた。束の間だと知ってはいても別れは悲しかった。それでも「戻ってきたら派手な婚約発表しましょうね」、鳥女の約束が多少の慰めになった。辛いのをじっと我慢しておく。 

 僕の手元に入る収益の分け前が幾らになるのか、ポ−ランは相変わらず計算できていなかった。「良い機会です、表舞台から少し姿を消しましょう。観衆を飽きさせないためにもね」。百戦錬磨の忠告に耳を傾けておく。 

 この時間を使い、袋詰めで届けられた大量の手紙に目を通し始める。バカンスが終わって人々は仕事に戻っていたとはいえ来客や握手、サインの要望に応え、新郎新婦の祝福やリンパ腺患者の抱擁や何やらで大分邪魔が入った。それでも僕はクロブキー国王ラディスラス・クロブカ1世宛ての手紙一つ一つに返事をしようとした。 

 助言を求めてくる手紙、誹謗中傷、密告、悩める青少年の人生相談、「王朝を次世代に引き継ぐお手伝いを」、妙に思わせぶりな写真付きの書簡…山ほどの手紙だった。僕の注意を引いたのは自称難民から届いた亡命の打診(二通)。お守りを通信販売している会社から「財政上の理由で」拠点を王国に移したい。別な会社から「産業廃棄物を妥当な値段で預かってくれませんか」。白鳥座ミュー王国の息女からプロポーズ。小切手が一枚届いたのは「河川整備を必要とする国家への助成金」。粉ミルクが12本。太陽発電の自動ポンプが1台。カシオペア座の住民から宣戦布告。フランス規格協会から最初のコンタクト。「独占契約でお願いします」と観光ガイドの見本刷りが一部。「クロブキー王国永久革命自由人民運動」と名乗る連中から脅迫めいた契約状が一通。人口数の調整を提案する家族計画案。挙句の果てに「対地ミサイル50発に原爆一つ、これにウラニウム235を5トン付けて格安の値段で販売します」。 

 最初に拒んだ請求書の催促も山ほど来ていた。 

 9月末。相も変わらずブラジルから座長と同僚、婚約者が戻ってくるのを待ち続けていた。一人の男がやってきた。キラキラした石、鏡、人工宝石と交換に庭の一角を売ってほしいそうだった。嫌な兆し。ガラスを売りつけられるなんて僕の相場が下がった証拠だった。他にに下着部屋をスパイしている男を発見。コートのボタンホールにはピンで留めた小型のシガレット・カメラ。掃除機の保証書と配線図を撮影していた。即座に国外追放してやったのは言うまでもない。 

 10月、国境付近に押し寄せてくる人は誰もいなくなった。外出しても名前を呼ばれるでもない。店の連中も無愛想に逆戻り、「王様御用達」の看板は片付けてしまっていた。例の雑貨屋からは訳もなく冷たく追い払われる。絵葉書は売切れ。子供がまた石を投げてきた。「みんな僕を忘れてしまったのかな」、疑いに苛まれながら帰宅。次第に憂鬱になってきた。 

 クリスマスだった。銀行は「貯金額が規定に達していない」、「未知の貨幣扱いになっている」、小切手の支払いを拒んできた。大ピンチ。毛皮付きのケープ、カワウソ革の靴を買うどころではない、一文無しだった。庭の小人人形が雪に埋もれているのを見て寒気がした。古びたタイヤにもたれている自分の姿を想像して怖くなった。想像するのも嫌だった。 

 金を手に入れるために再スタート。新聞やTVの編集局に電話を入れる。上手くいかなかった。「責任者が不在ですので…」、「会議中ですので…」。どこでも一緒で「月が変わったらまた連絡してくださいね」。電話線まで切られてしまう。とどめを刺すように町長から通達があった。「無許可の建造物は破壊しないと罰金です」 

 ここで駄目押しの一撃。ブラジルから一通の絵葉書が届いた。ポーランが金を手に失踪。気が遠くなった。途方もない詐欺だった。僕たちの才能を使うだけ使った挙句に。ゴム男と鳥女はマナウスのジャングルに置き去りにされていた。ゴム男は自分を研究所の実験材料にして秘密を解き明かそうとするゴム園の地主と戦っていた。鳥女の帰国が遅れているのは厄介な検疫の手続き、さらには高貴な女性に対する不当な扱いのせいだった。絵葉書には二人の言葉で「ポーランを捕まえて金を取り戻して」と書かれていた… 

 警部: どうやって探し出したのかな。 

 僕: ミント・キャンディーのお陰なんだ。奴がフランスに戻っている確信があった。ポーランはミント・キャンディーなしでは生きていけなかった。ブラジルでは手に入らない銘柄。メーカーの製造部門の責任者に連絡してみた。話によると普段ミント・キャンディーが売れていない地区でタバコ屋から大量の受注があった。馬鹿な奴だよね、ポーランは知り合いの小人投げ師の部屋に身を隠していた。ポーランも小人投げが好きなんだ。小人投げつながり。でも「トレーニングの音がうるさい」、近所からの苦情で引越しをしなくちゃいけなかった。 

 タイプライターの男: ポーラン宅で何が起こったのかようやく知ることが出来るのか。どうして死体が三つも。 

 僕: 大事なのは過程だからね。平凡な人間が予想もしない出来事に巻きこまれていく。あなただって。僕だって。みんなそうだ。安心していい人なんて一人もいないんだ… 


 別な男が。僕は彼女を愛しているのに彼女には別な男が。 

 予想しておくべきだった。クロブキー王国で引きこもり戦略などしていないで一緒にブラジルに行くべきだった。未来とは外国の出来事だった。グローバリゼーションだ。飛行機旅行なのだ。自国を愛し自給自足などしている間に運命の女性を失ってしまう。 

 鏡のついたタンスの上で鳥女は言い訳を続けていた。僕の耳にはほとんど届いてはいなかったけれど。 

 「あの人とても優しいの。とても才能があって私に良く似ているの。お互いの相手のために生まれてきた、あの人なら信じられる。悪く思わないでね。あなたの豪華絢爛、大国家計画、ありえない野心…本当に好きだったの。でもあの人は芸術家なの。光の存在なの。それにリオでの手術が成功してあの人は他と違う存在に生まれ変わった」 

 鼻をクシュンと鳴らした僕。控え目に聞いてみた。 

 「…何の手術?」 

 「移植手術」 

 怖いくらい話が見えなかった。 

 「ブラジルって普通は…切っちゃうんだよね。移植ってしないよ…」 

 女は苛立ったようだった。ハンドバッグから広告を取り出して突きつけてきた。

 「それ以上お馬鹿さんは止めて。このダチョウの羽って移植よ。他にありえないでしょ?」 

 写真に目をやった。全裸でムキムキのブラジル男がテーブル席の間で踊っている。前張りの代わりに木製の長い筒を使っている。虚栄心の大きさに相応しい巨大な筒だった。背中には薄紫色をしたダチョウの毛が申し訳程度に生えていた。どう生えているのかは見えなかった。成功の秘訣はこれか。評価された訳ではなく好奇心、チッチッチッ… 

 そこまで名声に惹かれる女性だとは知らなかった。 

 「事故があった後、私の中で何かが変わってしまった」、女の呟き声。「前とは違う女になってしまった。こんな男性に惹かれるのもおかしくない。理解して、ラディスラス、お願い…」 

 途方もなく絶望的な気分だった。頭に鳥の羽を付けた分離独立主義者のインディアンならまだ許せる。移植手術したブラジル人ダンサー…それで僕を捨てるなんて。 

 部屋を見つめた。自分の人生がどこに辿りついたのかよく分かる。部屋は重苦しい象徴で一杯だった。足元に死体が二つ、ガラスの割れた洗濯機。壊れてしまっている。台無しだ。細かな部分には全て意味があって僕を責め立てていた。 

 タンスの鏡にみっともない姿が映し出されていた。王冠はひしゃげている。王様ケープは破れてる。伝染したストッキング。三日分の無精ひげ。髪はボサボサ。腫れ上がった鼻。王様はほとんど裸だった。栄光と名声を追い求めたせいで破滅。想定していた以上に有名になった。でもその代償は?愛した女性は僕を捨ててしまう。仕事仲間は僕の手にかかって死んでしまう。座長は真っ青な顔で硬直を始めている。 

 全て終わった。僕を道連れにして。 

 撃鉄を起こす。銃口を自分のこめかみに向ける。引き金に力をこめた。かくして僕は予期せずに第3の死体を作り出す。弾はゴンドラで僕たちの階まで上がってきたペンキ塗りの男を直撃した。 

 「チェッ」、突然こみ上げてきた疲労感。 

 今年の僕って本当に運が悪いよね。 


Un Quart d'heure, pas plus / Francis Mizio
in La Bataille des Buttes-Chaumont
suivi Un Quart d'heure, pas plus
-L'Aumere : Editions de la Loupiote. -(Zebres ; 3).
-96p. -13 ×20 cm. -1996.

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] Noirs [ - フランスのもう一つの文学 by Luj, 2008 - 2010